「オレはこの仕事に興味はない。金を稼ぐことに興味があるだけだ」

 

以前の職場の上司だった次長は、飲み屋でハイボールを飲みながらはっきりと言い放った。

「お前はこの仕事が好きでこの会社に入社したのかもしれんが、俺は会社とか仕事の内容なんて何でも良かった」

そう言いながら、今度はキンキンに冷えた生ビールをゴクと流し込んだ。

「ただ稼げそうだと思ったから入社したんだ」

普通の会社の上司なら、仕事を好きにならないと出世しないぞ!と言うものだが、意外なことを言うなあと10年前の私は思っていた。

 

 

私はその上司の次長を何だかんだで尊敬していた。

会社の次長ともなるとふんぞり返って部下をアゴで使うようないわゆる「ウザ上司」の象徴だが、そう言った偉そうなそぶりもなく、ただの平社員だった私とも気軽に飲みに誘ってくれるような人だった。

そして日本のサラリーマンによくいる「イエスマン」ではなく、会社にしっかりと意見を言う人でもあった。

だが好きな事を仕事に選ばず、ただ金を稼ぐために働くのって、何て悲しい上司なんだとも思っていた。

以前の仕事は本当に好きな仕事だった。独立した今も会社員時代に近いジャンルの仕事をしている自分を見ると、やはり好きな仕事を選んでいる自覚がある。

私はその上司に反して「仕事は好きでないと続けられない」派だった。というかそう信じていた。

 

 

独立すると当然だが収入が減った。基本は好きな事をメインに仕事をしているが、それだけでは食っていけない。

やはり稼ぐビジネスをする必要があるという考えになった。

今はメインの仕事半分と、稼ぐためにやっている仕事が半分。

その稼ぐためにやっている仕事は、別に好きで始めたわけではない。

本当にただ稼ぐためだけに始めた。

楽しくもない作業をこなし、収益につなげるビジネス。

就職活動していた頃にこの仕事を見つけても、恐らくその当時の自分はやろうとも思わなかっただろう。

だが、それを今仕事にしている自分がいる。人生はわからないものだ。

今は10年前に次長が言っていたことがわかる気がする。