学生時代はよくバイトをしていた。

初めてのバイトのスーパーのレジは、時給700だった。

今だと時給700円のバイトなんて、見つけるのも難しいかもしれない。

低くても850円〜900円はあるだろう。

それでも自分で働いた分のお金がもらえるというのは、学生にとっては嬉しい限りだった。

「今月は週3でバイト入るから、1日8時間として、3×8×700=16,800円。1ヶ月4週間として16800×4=67,200円か」

こんな皮算用をよくやっていた。

その後は時給900円のカラオケバイト、時給1,000円の軽作業のバイトなどもやった。

一番時給が良かったのは、出版社での短期バイトだった。

時給は1,200円。

普段は時給1,000円で軽作業がメインだったバイト先の事務所で休憩していた時だった。

 

「ルーキーさん(私)は、、、Photoshopって使ったことある??」

 

と担当の人に聞かれた。

Photoshop(フォトショップ)とは、今や知らない人はいないほど有名なAdobe(アドビ)社の写真レタッチソフトだ。

まだ今ほどPhotoshopがメジャーではない時代だったが、大学で画像処理の勉強をしていた私は経験があった。

 

「学校で使ってますけど、まだ勉強中なので基本的な事しかできませんが、、、、」

 

そんな私の話を最後まで聞かずに、担当者は一気に笑顔になった。

 

「やった!!助かった!!ウチの派遣先の出版社で、Photoshopのオペレーターが足りないからヘルプの要請が来てたんよ!Photoshopなんて専門的なソフト知らない人ばかりやから、、、ダメ元で聞いてみるもんやなー!!」

 

すでに私がそのヘルプに行くことが決定したような空気が流れていた。

「心配しなくてもウチのお得意先でいい人ばっかやから!!1日8時間で1時間休憩。半月契約の10日間出勤。あ、休憩中も時給発生するから。時給は1,200円やで!」

時給を聞いて驚いた。1,200円というのは当時の私には未知の領域だった。

「ちょっと使える人でOKらしいから、大丈夫&大丈夫!!もちろん、行ってくれるやんね!?ヨロシクね!!ちょっと特殊な出版社やけど(笑)

私の返答はすでに暗黙の了解で「YES」となっていた。

ちょっと特殊な、、、?少し気になったが、時給1,200円は魅力的すぎた。

 

基本的な操作しかできないが大丈夫だろうか?、、と不安もあったが

「1日8時間で8×1200=9600円。10日間行くから9600×10=96,000円!」

すでに皮算用をしてテンションが上がっていた私だった。

 

1,200円バイトの初出勤の日。

出版社と聞いていたので大きなビジネスビルを想像していたが、5階立てぐらいの商業ビルだった。

「あ、ルーキーさん?初めまして、今日から10日間よろしくお願いします」

担当チーフがオフィスの概要とスタッフを紹介してくれた。

その出版社は10人程度のスタッフが働く、こじんまりした感じの会社だった。

その当時としては珍しくすべての作業デスクにマックが設置されており、全員がパソコンに向かって作業していた。

 

「ウチはマンガの原稿レタッチをしている会社です。主にPhotoshopでの作業になります」

 

マンガ原稿を見て、バイト先の人が言っていた「ちょっと特殊」の意味がわかった。

それは「恋愛&ちょいエロ」というようなコンセプトで、学生の恋愛を描きながら少しエロいシーンが入ってるようなマンガだった。

言いようによっては「エロマンガの編集」とも呼べるような仕事だった。

こういうバイトを嫌がる人もいるかも知れないが、私は「貴重な体験ができる!」とワクワクし始めていた。

 

仕事内容はいたって簡単だった。

マンガ原稿をスキャナーに入れて取り込み、取り込まれた原稿にPhotoshopを使って「ベタ」を塗るという作業だった。

「ベタ」というのはマンガ制作の用語で、原稿中の指定された範囲を黒く塗りつぶす事だ。

通常であればマンガ家のアシスタントが、インクや筆ペンなどを使って塗りつぶす作業を行うのだが、それをPhotoshopを使って行うという仕事だった。

ベタの指定は登場人物の髪の毛。

10時から18時まで休憩1時間を除いて7時間、Photoshopでベタ塗りするバイトが始まった。

 

はっきり言って楽勝だった。

Photoshopを使った事がない人であれば少し苦戦するかも知れないが、すでに基本的な作業ができた私には朝飯前の仕事だった。

しかも高級な作業デスクと座り心地のいい作業チェア、エアコンもしっかり効いており、会社の人がヘルプだからと気をつかってコーヒーを入れてくれたり、お菓子を出してくれたり、、7時間の作業は遊んでいるような感覚だった。

 

「ルーキーさん、作業早いですね!!すでにお願いした仕事が終わってしまいました!!」

 

5日目に私は10日間分の仕事を全て終えてしまった。

別に急いでいた訳ではないのだが、夢中になってやっていたらあっという間に全ての作業が終わってしまったのだった。 

おそらくこの出版社はもっと初心者が来るのだと思って仕事の量を調整していたようだったが、ある程度ソフトを使える人にとっては何でもない仕事量だった。

 

「10日契約分の仕事が完了してしまいましたね。今日で終わりでもいいんですが、、残り5日間を時給1,500円にしますので、もう少し手伝ってもらえませんか?」

 

前半5日が5×1200×8=48000、後半5日が5×1500×8=60000。合計108,000円!」

10日で10万円、もう「やる」という選択肢以外考えられなかった。

その後の作業は少し複雑になったが、特に苦戦することもなくサクッと5日間を終えた。

出版社の人からは、「ウチで働かないですか?w」なんていう冗談も言われ、非常にいい気分で10日間を終えた。

今、思い返してもその10日間の短期バイトが最も高額で最も楽しいバイトだった。

この時に「スキルは金になる」というのを何となく感じていた。

将来、仕事をするにはスキルが必要だと。

同時に、「短い時間で効率良く高収入を得る」という事が非常に大切だと感じた。

 

会社員になると月給になるので、時給という感覚があまりない。

例えば月給23万(8時間+残業2時間、完全週休2日)とすると、時給はざっくり1000円だ。

ボーナスや福利厚生もあるので、実質1000円以上になるのだが、計算上はこんなもんだ。

時給1000円で膨大な作業量、胃に穴が開くプレッシャー、半端ない責任を負わされるのだ。

会社員の人は、一度自分の時給を計算してみて欲しい。

 

時給は自分の労働価値を表す数値だ

 

本当に自分は今の時給分の仕事に見合っているかどうか。

安いギャラで奴隷のように働かされてはいないか。

安いギャラで責任ばっかり押し付けられてはいないか。

それが見合ってない人は、すぐさま方向転換する必要があるように思う。